なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか―。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。


水戸黄門といえば、誰もがしる正義の味方のおじいさん。という印象でしょうが、著者が別の小説「天地明察」で登場させた光圀は、かなりユニークで印象的なものがあった。
だから、その後著者が本作を書き上げたことを知ったとき、とても腑に落ちた気分となったのを覚えている。
それがようやく文庫になったので、早速入手して読了した。

冒頭、人生の終盤にいる光圀の描写から始まる。そこから少年期に時を巻き戻し、青年期、壮年期を力強く駆け抜けていく様が、生き生きと描かれてゆく。

物語はひたすら光圀を軸に展開する。
次男である彼が何故跡取りとなったのか、世の理とは、大義とは、生きるために必要な志とは。
そういったことを考えながら、自らがなしうる事柄を吟味し、無理難題と思われていたことを人生を賭して成し遂げて行った光圀という人物が、とても人間らしくて序盤から一気に引き込まれた。

読んでいてとても楽しかったのは、中盤の光圀の青年期だろう。
盟友とも呼べる男を得、理解のある聡明な妻と共に過ごした数年間。
あの期間が何とも得難い幸せな時代で、後に大切な人を次々に失ってしまうこともあって、余計に印象に残る。

後年、大切に思ってきた人物からの酷い裏切り(本人は恐らくそう思っていないのだろうが)は、薄々気が付いていはいたがやはり彼がそうか…と光圀と一緒に残念に思いながら、けじめをつけるあの事件までを一気に追ってしまった。


とにかく、キャラクターが皆魅力的で個性的で、ぐいぐいと最後まで引き込まれた。
文庫は厚めの上下巻だが、一気に楽しめること請け合い。

素晴らしい。

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