■「小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代」阿古真理
2015年8月17日 小説、活字本テレビや雑誌などでレシピを紹介し、家庭の食卓をリードしてきた料理研究家たち。彼女・彼らの歴史は、そのまま日本人の暮らしの現代史である。その革命的時短料理で「働く女性の味方」となった小林カツ代、多彩なレシピで「主婦のカリスマ」となった栗原はるみ、さらに土井勝、辰巳芳子、高山なおみ…。百花繚乱の料理研究家を分析すれば、家庭料理や女性の生き方の変遷が見えてくる。本邦初の料理研究家論。
前半は、昭和初期から近年までの女性史、という側面もあったかな。
料理研究家を時代と共に紹介していくんだけど、その時代に女性に何が求められていたのかを、「料理」を視点に語っていて、珍しい種類の読み物だな、と思った。
ただし、その時代に社会が女性に何を求めていたのかとか、女性の社会進出が始まったことにより時間短縮レシピが重宝されていくとか、どうにも情報ソースが著者の印象と感想だけになってるようなのが残念。
しっかりした調査と研究の成果であるなら、根拠となるデータの所在(あるいは数値データとか?)があってもいいと思うのだが、裏付けがあるように見えないのが弱いなぁ。
巻末に詳細な参考資料リストがあるわけでもないのが、そのあたりの心もとなさに繋がる…。
あと、時代と料理人の特徴をあぶりだす、という目的で途中挟まれる著者の再現料理コラムが、あいまいすぎて意味不明。
料理研究家のレシピを元に作りつつ、結局自己アレンジを加えて完成させており、それじゃあ全然意味がないじゃん、と。
せめてレシピ通りに作ってみて、その後自分のアレンジをして比較してみるとかしないとダメなのでは?
自己アレンジ料理では、レシピ(ひいては、そのレシピの考案者。つまりここでは料理研究家)の分析に全くなってないよ。
ただ、ビーフシチューの定点観測は面白かった。
昔の料理研究家たちは、外国で料理を習ったり振る舞ったりしてきた人たちが、主婦層に対して料理を紹介する、というスタンスだったと。だからソースの煮込みに何時間をかけたりという手間暇かかったレシピが残っている。
それが、近年のレシピになってくると、缶詰を利用したりかなり手軽に挑戦できるものに変わってきていたりして。
こういう比較検証は楽しいですな。
小林さんと栗原さんの、日本の女性たちへの影響などは、それはそれで一つの面だとは思ったけど、こちらも論調がちょっと弱い。
一つ一つ、取り上げられている事象については、著者の考察や発見・感想があって、読み物として面白くはあるのですが、全体にひとつの新書としてのまとまりが、あと一歩、というのが読後感でしたね。
ただ、こういう料理研究家、という切り口での考察本はあまり他にみたことがないので、先陣を切ったという意味では、意味のあるものだったといえるのかも。
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