■「心にナイフをしのばせて」奥野修司
2011年9月4日 小説、活字本1969年春、横浜の高校で悲惨な事件が起きた。入学して間もない男子生徒が、同級生に首を切り落とされ、殺害されたのだ。
「28年前の酒鬼薔薇事件」である。
10年に及ぶ取材の結果、著者は驚くべき事実を発掘する。殺された少年の母は、事件から1年半をほとんど布団の中で過ごし、事件を含めたすべての記憶を失っていた。そして犯人はその後、大きな事務所を経営する弁護士になっていたのである。
これまでの少年犯罪ルポに一線を画する、新大宅賞作家の衝撃ノンフィクション。
神戸の14才少年の事件はまだ覚えている人は多いのではないでしょうか。
あの事件と似たような(といっても、似ているのは被害者が首を切られたこと、だけ)が28年前にあったのだそうです。
最初の好奇心はこの部分にあったのですが、本書のメインはどれだけ事件が似ているかというよりも、事件被害者家族が、加害者に比べて随分と国から救済がなされていない、という事実をつぶさにしたものであったように思います。
この事件の犯人は、少年院を出てから、名前を変え、大学に行って弁護士になったのだそうです。
これは、事件当初少年だったことが大きくて、判決で決められた期間を望ましい姿勢で過ごせば、人生をやり直す権利がある、という法律によるのですね。
それにしたって、被害者家族の事件後のいろいろな悲劇を考えると、犯人が自分で事務所を構えるほどの弁護士になって、社会で普通に生活していることに、被害者家族が憤りと不満を感じてしまうのは、とても理解できることではあります。
被害者家族の事件後の様子は、主に被害者の妹の視点で語られるのですが、何というか、あの事件さえなければ違った人生があったのかもしれない、と思わせられる半生でした。
とても印象的なルポタージュだと思います。
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